年の瀬間近い平成3年の12月28日、ケイがやって来た。

千葉県のある狩猟家が事情あって手放したらしく、

私の知人が情報を得て入手してくれたのである。


彼の父母はどちらもフランスの犬で、

両親同時にコティニャック犬舎から輸入された、

言わば生粋のフランス・ブルトンであった。

1歳と8月、濃いオレンジの更紗班に鮮やかな四肢のルアネ。

痩せてはいたが、力強い肩の筋肉と後脚の張り。

明瞭なストップと涼しい眼を持った牡だった。


その日から私と彼とのマン・ツー・ワンの生活が始まった。

食事から風呂からトイレ、寝るのも一緒の生活だった。

調教の専門家からすれば明らかに邪道と言える接し方であったろう。

あくまで人間に対するのと同じ言葉で、彼の目を見ながら語りかけた。

家族の誰の命令でも理解できるようにと考えてしたことなのだが、

聡明な彼は人の言葉と身振りはもとより、

目や表情から心の内まで見通していたに違いない。


猟野における彼の仕事振りについては多くを語りたくはない。

どこにでもある自慢話と大差ないからである。

ただ彼の名誉の為に少しここでご紹介しておこう。


拙宅から車で10分程度の京都西山のO地区、その日も下見に猟場へ行くと、

2頭の英ポを連れた先着の二人組み、犬はやや大型の白黒で

見るからにアオア系(日本でも一世を風靡したアイル・オブ・アランの系統)

聞けば大阪から来たとのこと。引き上げるらしく犬に缶詰を食わせていた。

猟果を聞くと「居りそうなのだが、犬が反応しない。」とぼやく。

「このあたりは以前は多くいたが、数が減ったのでここ2年ほどは私もやってない。

いる筈なのだが・・・」と話している間に彼が傍にいないのに気付いた。


見渡せば、70〜80m先の小さなこんもりとした藪の前で、

鼻先を宙に突き出しながら何度も半円を描くように動き回っていた。

「何かいるのかな?」と彼の鼻先を追うと、

前方の藪から突き出した松の枝に何かが止まっていた。

枝葉に隠れて見づらいが、良く見ればカラスではない。

300m先のカラスとキジの違いを見分ける自信のある私は確信した。

「このあたりの植生からするとヤマドリではない、キジだ。」


彼の側まで近づいたところで彼が静止した。

しかし困ったことに、その藪の東側約30m先には市道があり、

その向こうには人家も点在している。そちらへ翔ばれたら撃てないし、

居鳥を撃つのは鳥撃ちの沽券にかかわる。

鳥にも逃げるチャンスを与えないと勝負とは言えないのである。


やむ無く東へ廻り込むと彼も付いて来た。

足場が悪いので上ばかりも見ていられない。

その間に翔ばれたら見送る以外ない。


翔ばれないように身を低くしてゆっくりと回り込む。

動悸が高まり、舌が喉に貼りついた。

漸く市道の近くまで辿り着くと、

静かに F.N.Browning A5 の遊底を開き、

Remington RXP-S 5号 35.5gを薬室に滑り込ませた。

弾倉を開放して立ち上がり、据銃しながら大声を出すが、キジは翔ばない。


普通白日にキジが樹に止まることはない。

キジが樹上に止まるのはよほど慌てていたか、樹上ならポイントされない

ことを知っている老獪なキジの逃避術かのどちらかである。

2頭の英ポに接近されたこのキジが、樹上でじっと身を潜めていたところ、

彼は空中に漂うその微かな鳥臭を捉えていたのである。


声を出しても翔ばないキジに、樹上まで登れるはずもないが、

「行けっ!」と号令をかけると彼は藪に跳び込み樹下から激しく吠え立てた。

競技会などでは吠えるのは減点ものだが、実猟には結構都合が良い。

キジは時計文字盤の1時から8時の方向へ飛翔した。

難しい角度だか二の矢でキジはぐらっとし、川沿いの叢へ落ちて行った。


彼が持来したキジを見るとずっしり重く、蹴爪の立派なヒネキジであった。

二人組みはブルトンを初めて見たと言い、その猟芸に魅せられたらしく、

しきりに彼の身体を撫でて「大した奴だ。」と暫くはそこを動かなかった。


このヒネキジは剥製にし、M氏の求めに応じ進呈した。

今でも同家の床に飾られていて、「こんな立派なキジは見たことない。」

と来る人ごとに賞賛されているとのことである。


脂の乗ったケイ5歳の猟期のことだった。


=つづく=


Un maximum de qualités dans un volume minimum.

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ブリタニー・スパニエルの名犬『ケイ』の想い出